砂の本
ボルヘス著作「砂の本」は
読んでは消え
めくっても、二度と同じ頁には
たどり着くことはできない本の話です。
頁は砂塵のごとく消え
新しい頁はどこからともなく現れる
砂の本は頼りなく、不安な気持ちにさせると同時に
創造的な期待をもたらします。
そこには、「軽やかに生きる技法」のヒントがあるように思われます。
さて、この話をアーティストの C 氏にしたところ
バルザックの「知られざる傑作」について語り始めました。
世界初の抽象画は1832年2月、小説の中で生まれたようです。
画家が、今までいた世界を「フレーム」として感知し
そこをすり抜けようとした実験と、その実験上で現れた絵画
未だ見ぬ何かを手探りすることで現れた絵画
明確なひとつの目的地に向うというやり方では
決してたどりつけない場所へ
「どこから始まってもよいし
どこで終わってもよい
始まりも終わりもない 円環」を回し始めること
この展覧会に参加する表現者は 作品や
日常の何げない会話から その「回転」について
熟知されたアーティストであり
この呼応が生まれる予感があります。
これは、本の構造を下敷きにした「展覧会」であり
展覧会という名の「本」でもあります。
「砂の本」は、時代が急速に移るなか、資本主義的な支配圏域の拡張志向、および未来のために現在を犠牲にするベクトルに対して、アーティストや専門家たちが軽やかに抵抗し、現代社会の持つ課題への直接的な取り組みにとどまらない、その人にとって大切な一冊の本の読む時間のような深い思考・想像・創造することを求める、根源的な欲求からスタートした企画です。
この企画の特色として、アーティストより章が提案され、展覧会全体を見終わると、一冊の本を想起できるような仕組みを持ちます。物語の編み手となる作家は、提示された章のタイトルに対し、それぞれが自由なイメージを経た一冊の本を書き、香りの専門家は、各章のタイトルから連想した香りを調合し、瓶に詰めて配置されます。会場にはあらかじめ固定化されたストーリーはなく、あたかも目次だけが示され、内容は白紙というように、そこで紡がれる物語は円環、そして永遠に続く入れ子のように相互に緩やかに繋がりながら、各作家による展示作品と物語の編み手による本が数冊、テーマに沿って調合された香りが展示されます。会場を訪れる人々は、周り方によって自由に読み替えが出来、想像を遥かに超えたストーリーが日々編まれていきます。
*本企画は、参照としてホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges 1899 - 1986) の「砂の本」を下敷きにしています。ボルヘスは視力が失われる中、砂の本を口述筆記されたといわれ、彼の著作は、円環、架空の書物をモチーフとする作風で知られており、本企画の構成もそれをなぞることになります。
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